オープン&クローズ戦略

それ自身が「全体」だったはずのクルマが、繋がることで新たに生まれたさらに大きな全体の中の「部品」になり、付加価値が上位概念側にシフトする。
オープン&クローズ戦略

「オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件」の著者である東京大学の小川先生の講演を聴講しました。

ざっくりいうと、なぜAppleやボーイング、サムスンなどの海外企業に日本の名だたる企業が負けたのか?
それを産業構造の変化と特許戦略の観点から説明し、”境界線”を繋ぐ仕組みを強調した内容でした。

90分の講演の中でいくつも刺さるキーワードが出てきたので、ご紹介します。

■産業構造の変化
これまで起こってきた産業構造変化のとらえ方が面白いものでした。
18世紀後半に起こった第1次産業革命は、イギリスでの蒸気機関の発明のことと言われています。
しかしこれは結果であって、実は、「所有権・知財権の法体系整備」がキモとのこと。蒸気機関を発明したワットは特許取得に明け暮れていたそうです。
第2次産業革命は、「自然法則の産業化」といえる。それまで存在しなかった電気産業は自然法則の組合せで実現したものです。
そして現在の第3次産業革命=IT革命は「人工的な論理体系(ソフトウェア)の産業化」という言い方をされていました。
自然法則主導の産業と人間が作った人工的な論理主導の産業、ルールが全く違います。

■付加価値が変わっていく
昨今車のネット接続、IT化が激しい。それまで内燃機関として機械としての自動車が最近では高度な電子制御技術の塊になっている。
それがネットに繋がることで、主役であった自動車からクラウドへと価値が変わっていくのではないか?

それ自身が「全体」だったはずのクルマが、繋がることで新たに生まれたさらに大きな全体の中の「部品」になり、付加価値が上位概念側にシフトする。

このフレーズは示唆に富みますね。

■企業(自社)と市場(顧客)との境界設計
AppleはiOSのコア部分はブラックボックス化し、アプリケーションとの繋ぎのインターフェースを公開する。
インテルは、CPUコアの部分はブラックボックス化し、周辺機器との接続部分はオープンにする。
こういった、自社の強みの源泉部分はしっかりと守り、周辺部分との接続部分は規格化しオープンにしてみんなに使わせる。
言い換えると、自社のコア技術部分はクロスライセンスしないでしっかりと守り、これと調達可能な既にオープンな技術との”結合領域”を事前にしっかり設計しておくこと。これが欧米企業が勝ってきた理由である。

オープンイノベーションというが、全てがオープンではなく、クローズ領域がないと勝っていけない。
つまり正確に言うと、オープンイノベーションはオープン&クローズ戦略である。
どこを隠し、どこを公開していくかの戦略である。

■ビジネス・エコシステム
現在は大企業といえども1社で全てを行うことはできない。
ポーターの言う戦略はバリューチェーン時代のもので、現在のビジネス・エコシステム時代には通用しなくなってきているのでは無いか?

この言葉も興味深いものです。

最後にドイツの話。
経常収支が黒字化し赤字国債の発行もしなくて良くなったドイツ。
このドイツの強さの秘密は、これまでお話ししたオープン&クローズド戦略だけではなく、グローバルニッチ戦略をとっている数々の中小企業になるようだそうです。
この話は今後の日本の中小企業の進むべき方向性をさぐる上でも興味深いものです。

先生の調査結果が発表されるのが待ち遠しいものです。

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