巧妙に仕組まれた?事業承継

中村:
社長は29歳の時に事業承継されていますが、これは先代社長が創業なされた29歳と同じです。これには意図があったのですか。

平林社長:
いえいえ、それはないと思いますが、今にして思えば先代から仕組まれたものかもしれませんね(笑)。
もともと私は先代の会社で働く気はさらさらありませんでした。
大学卒業後に海外に出たくてその資金稼ぎで、4ヶ月間アルバイトとしてこの会社で働かせてもらいました。
そのアルバイトの4ヶ月間、製造、設計、企画など事細かに仕事をさせられました。これはインターンシップとして父が仕組んだものかもしれません。
その後、カナダに1年間留学します。アメリカンドリームを夢見ていたのですが、環境に慣れてくると刺激が少なくなってきました。
そのときに日本の父の会社で過ごさせてもらった4か月間が思い出され、充実した刺激に満ちた時間と父の会社のすごさを実感しました。
そして帰国後働かせてくれとお願いして入社しました。それが2004年です。
その2004年に先代社長が、5年後に引退すると宣言したんです。金型業界では60すぎても現役社長はたくさんいます。業界に驚きが走りましたね。
もちろん、私にも経営を受け継ぐ意思はありましたが、明確に次を誰にするのかは決まっていませんでした。5年という時間があったおかげで、社員に考える余裕を与えことになりますし、次が誰かを見定めることもできたと思います。
このことが結果的に事業承継がスムースにいったのではないかと思います。本当に先代はすごいと思っています。

「社員は家族」

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● 社員が全面に出た会社案内

中村:
MITサロン(塩尻市インキュベーションプラザSIPで行われている製造業の勉強会)でもお話されていましたが、サイベック様は社員に対する福利厚生が充実されています。
先日は、障害者技能競技大会アビリンピックで製品パッキングで銀賞をとらていましたね。

kobayasi● アビリンピックで銀賞を受賞した小林さん 

平林社長:
ありがとうございます。アビリンピックは小林くんのことですね。
福利厚生について言えば、まずは創業からの理念として「社員は家族」というものがあります。
会社の競争環境が変わっていくにつれて技術等は変えていく必要はありますが、「社員は家族」の理念は変えてはいけないものと思っています。
家庭の安心と会社の安心がなければ、いい仕事はできません。
当社の制度としては、育児休暇を1年から3年に延ばしましたし、ノー残業デーやアニバーサリー休暇もあります。
面白いところでは、「スペシャルサンクス賞与」と「有給シェアリング」があります。
「スペシャルサンクス賞与」とは、社員の家族にあげる賞与です。毎日、元気にお父さんを会社に送り出してくれている奥さんに贈るものです。
「有給シェアリング」は、社員が自分の使わない有給を他の社員のために供与するものです。以前、心臓に病のある社員がいて手術のために入退院を繰り返して有給も消化してしまいました。そうなると欠勤になってしまいます。
そこで、例えば社員は74人いるのですが、それぞれが消化しない有給を彼のためにシェアすれば70日もの休みがとれることになります。
まさに「社員は家族」の精神なんです。今では心臓に病のあった社員も完治して、みんなに恩返しをしなきゃとがんばって働いています。

今後の事業の展開と夢

IMG_3087 ● 「夢」の前で

中村:
2013年9月に医療機器製造業許可証を取得されていますね。

平林社長:
今は自動車関連が売上げの8割を占めていますが、これがいつまで続くかはわかりません。
先代が電気部品から自動車部品へ舵を切ったように、今のうちから新しい分野の準備をしないといけません。
全くの新しい分野ではなく私たちの既存技術が生かせる分野がないか、探してきました。
そして医療分野にたどり着きました。今年から生産を始める予定です。

中村:
すでに次の成長分野にも着手されているのですね。最後にこれからのサイベック様の夢をお聞かせください。

平林社長:
経営者として、社員を信頼しないといけないと思いますし、社員から信頼される経営者でないといけないと思います。お互いが信頼しあえる仲間にならないと。
そして、夢工場がそうですが、楽しいものづくり、社員が楽しみながら仕事をしていく環境づくりです。
会社が安定することで、社員の家庭も安定し、いい仕事ができる。そして、社員の子供がサイベックに入社してくれるような会社にしたいですね。
そうなれば、サイベックのDNAを受け継ぐ社員が入社することになるのでリクルート活動も必要ありません。(笑)
当社の会社案内を見てもらうとわかるのですが、技術紹介は紙のペラ1枚で後は社員の顔を全面に出したものになっています。
当社にとって、人が最大のブランドであり商品です。それが私の目指す、ジャパンドリームです。

KEN'S EYE

日経ものづくりで紹介もされ最近メディアで報道される機会の多いサイベック様ですが、今回のインタビューでは「夢工場」そのものではなく、その投資に至った経緯やイノベーションに対する取り組みにフォーカスを当ててお話しをお伺いしました。
平林社長はまだ33歳とお若いですが、先代からしっかりと経営理念を引継ぎ、自分たちの次の舞台である「夢工場」をつくられました。
「職務開発制度」でのイノベーションの誘発、「社員は家族」を具現化した「有休シェアリング」、「スペシャルサンクス賞与」などの話は心が温かくなります。
平林社長からお話を伺って、すっかりサイベック様のファンになってしまいました。

【インタビューアー:中村 剣(中小企業診断士)】2014/02/24

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